マレーシア中央銀行、資産トークン化試験に向けた3年間のロードマップを発表
マレーシア中央銀行が資産トークン化試験に向けた3年間のロードマップを発表
BNM (Bank Negara Malaysia:マレーシア中央銀行)は、ブロックチェーンベースの資産トークン化が同国の金融システムを近代化する方法を探るため、野心的な3年間の取り組みを正式に開始した。
2025年11月1日(土曜日)に 発表 されたこのプログラムは、デジタル資産イノベーションハブを設立し、銀行、フィンテック企業、ブロックチェーン開発者を結集して実社会での応用を検証していく構えだ。
ロードマップは、技術そのものの実験ではなく、具体的な経済問題の解決に重点を置いており、中小企業が直面する215億ドル(約3.3兆円)もの巨額資金のギャップ解消、シャリア法に準拠したイスラム資本市場の近代化、金融市場全体の効率性向上を目指している。このロードマップの重要な部分は、業界全体の調査を調整し、知識を共有し、規制および法的課題を特定する資産トークン化業界ワーキンググループ(IWG)の設立で、BNMと証券委員会(SC)が共同で主導するこのワーキンググループは、当初、明確な経済的価値を示す基礎的なユースケースに焦点を当てていく。
デジタル資産ハブが変革を先導
デジタル資産イノベーションハブは、2025年6月にアンワル・イブラヒム(Anwar Ibrahim)首相が議長を務めたシンポジウムで初めて 立ち上げ られた。
このハブは、金融機関が新たなデジタル資産ソリューションを実験できる、管理されたテスト環境を構築し、その間、規制当局はセキュリティの枠組みとガイドラインを改良する。このサンドボックス方式により、企業は金融の安定性や消費者保護を損なうことなくイノベーションを推進できる。
BNMは、このハブの使命を拡大し、3年間の資産トークン化ロードマップを正式に策定し、2026年の概念実証プロジェクト、2027年の拡大パイロットプログラムが含まれている。マレーシア・リンギット建てのトークン化預金とステーブルコインの役割についても研究する予定で、“通貨の単一性”を維持しつつ、効率的なデジタル決済を可能にすることを目指していく。さらに、ホールセールCBDC(中央銀行発行デジタル通貨)の統合も検討されている。
スマートコントラクトによるイスラム金融の近代化
トークン化されたイスラム債券(=sukuk:スクーク)は、シャリア原則を完全遵守しつつ、支払の自動化ができる。
スマートコントラクトは、契約の即時履行、流動性の向上、イスラム金融エコシステム全体の透明性の向上を可能にし、この自動化により、決済時間の短縮と運用コストの削減が可能になり、宗教的コンプライアンスも維持されるという。
この取り組みは、グリーンファイナンスや環境・社会・ガバナンス(ESG)投資にも拡大されている。マレーシアの金融機関は、2027年までに2,400億リンギット(約8.8兆円)を超えるESG関連融資にコミット。トークン化されたグリーンボンドは、支払いを検証済みの気候指標に直接リンクさせることで、グリーンウォッシングを防止し、持続可能性に関する主張に対する投資家の信頼を高められる。
3つの指針がアプローチを形作る
BNMは、トークン化プロジェクトを評価するための明確な基準を策定した。
第一、提案されるユースケースは、仮定に頼るのではなく、具体的な現実世界のメリットを示す必要があり、プロジェクトは、理論的な利点だけでなく、具体的な価値を示す必要がある。
第二、分散型台帳技術は、従来のソリューションよりも実際に優れた問題解決効果を発揮する場合にのみ活用すべきでBNMは、APIなどの従来型のアプローチが、一部のビジネス課題に対してより有効となる可能性があることを認識。テクノロジーの導入は、流行に左右されるのではなく、目的を明確にする必要がある。
第三、各プロジェクトは、現在の能力で技術的に実現可能でなければならない。業界が成熟し、インフラが整備されるにつれて、BNMはより複雑なユースケースへの展開を計画。段階的なアプローチにより、プロジェクトは概念的なままではなく、実装できるようになる。
なお、BNMはシンガポールのMASや香港のHKMAなどの他のアジアの規制当局に加わり、金融インフラの近代化に向けて資産トークン化の試験運用を目指している。2026年3月1日まで、ディスカッションペーパーに関する業界からのフィードバックを積極的に求めており、関係者は書面による回答を提出できる。
このプログラムが成功すれば、2027年までにマレーシアの金融環境を一変させ、規制されたトークン化金融における地域のリーダーとしての地位を確立する可能性がある。慎重な規制監督、業界連携、実践的な価値創造への注力を組み合わせることで、BNMがブロックチェーン・イノベーションに責任を持って取り組むための模範となるだろう。
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