Danny Ryan：ウォール街はあなたが思っている以上に分散化を必要としており、Ethereumが唯一の答えです

私が最も驚いた発見は：ウォール街は実際に強く分散化を求めているということです。

これは直感に反するように聞こえます。私たちクリプトパンクや暗号ネイティブは分散化を重視しますが、大衆はBinanceでステーブルコインを取引したり、オンチェーンでMemeコインを追いかけたりすることの方が関心があるようです。誰も分散化を気にしていないように見えますが、ウォール街は気にしています。

Danny RyanはEtherealizeの共同創設者であり、元Ethereum Foundationのコアリサーチャーです。彼はDevconnect ARG 2025で、プロトコル開発から機関向けアプリケーションへの転換で得た深い洞察を共有しました。

序論：プロトコル研究から「銀行の視点」で世界を見るまで

お久しぶりです。前回のDevconは欠席しましたが、それが当時の私がEthereumについて唯一語れることでした。

私は分散型システム分野で約10年間働き、Ethereumの構築、メカニズムデザイン、分散化、セキュリティ、レジリエンスの研究に取り組んできました。そして今、私は毎日銀行とやり取りしています。少し奇妙ですが、実際にはとても面白いです。多くのことを学びましたし、彼らも私たちから多くを学びました。例えば、名刺が今でも頻繁に使われていることに驚きましたし、皆がLinkedInを使っています。私はまだLinkedInに登録していませんが（同僚はあまり喜んでいないと思います）、ウォール街はこれらのツールに依存しています。

ウォール街について言えば、実は「ウォール街」はもうウォール街にはありません。ニューヨーク証券取引所以外の機関はほとんどマンハッタンのミッドタウンに移転しています。

現状：伝統的金融市場の極度な非効率性

私たちは通常、機関市場は非常に効率的だと考えがちですが、実際には株式取引の決済には1日（T+1）かかります。これは最も効率的な市場でさえこの状況です。詳しく見てみると、機関市場は非効率と手作業のプロセスで溢れています。

技術的には極めて断片化されています。あるアセットマネージャーはポジション管理に1つのソフトウェア、決済に別のソフトウェア、コンプライアンスにさらに別のソフトウェアを使い、それらを複雑に統合しています。まるで「フランケンシュタイン」のように継ぎ接ぎされた悲惨なソフトウェアスタックです。中にはファックスを送り合っている機関もあります。決済やその他の重要な活動には非常に時間がかかります。債券決済は2日かかり、これは10年前にT+3からT+2にアップグレードされた「大きな勝利」でした。

一方、Ethereumの世界では、取引と決済は同時に行われます。これは私たちの生まれ持った強みです。

伝統的なシステムは仲介者とシステミックなカウンターパーティリスク（Counterparty Risk）で満ちています。このアーキテクチャは100年以上続いており、法律が紙の上に重なり、その上に仲介者が重なっています。人類学的に見れば、彼らがこのようなシステムを築いたのは奇跡ですが、今はより良い技術があるので、修正する時です。

コアインサイト：機関は実際に「分散化」を渇望している

私が最も驚いた発見は：ウォール街（広義の機関）は実際に分散化を強く求めているということです。

これは直感に反するように聞こえます。私たちクリプトパンクや暗号ネイティブは分散化を重視しますが、大衆はBinanceでステーブルコインを取引したり、オンチェーンでMemeコインを追いかけたりすることの方が関心があるようです。誰も分散化を気にしていないように見えますが、ウォール街は気にしています。彼らの視点からその理由を「翻訳」してみましょう：

1. カウンターパーティリスクの排除： 機関の主要な視点の一つは「誰が私を陥れるか？」です。取引相手から関連銀行、インフラまで、あらゆる層にリスクがあります。インフラ層の分散化と信頼できる中立性（Credible Neutrality）は、このリスクを大幅に低減、あるいは排除できます。

2. 稼働時間（Uptime）： これは極めて重要です。彼らは100%のオンライン率を求めます。Ethereumがそれを実現できるのは、十数種類のクライアントと何千ものノードが稼働しているからです。これは偶然ではなく、意図的な設計です。

3. 希少な暗号経済的セキュリティ（Crypto Economic Security）： 世界で「1兆ドル規模」の資産クラスのセキュリティを担える分散型システムはごくわずかです。私が言っているのは、無数の個人投資家の数百ドルではなく、総額数百億、数千億ドルのグローバル資産です。明日適当にシステムを立ち上げても、このレベルのセキュリティは得られません。Ethereumはこの希少なリソースを持っています。

4. 成熟したアプリケーション層： Ethereumはすでに10年稼働しています。銀行と話すとき、彼らがブロックチェーンを少しでも理解していれば、それはEVMとSolidityを指します。彼らは成熟したセキュリティ基準とアプリケーション基準を必要としており、明日登場する最新のソフトウェアではありません。

5. プライバシー： これは私が非常に重視している点です。機関向けにプライバシーを構築することは、ブロックチェーン全体のプライバシーナラティブを推進する「トロイの木馬」です。機関採用において、プライバシーは入場券（Table Stakes）であり、単なるクールな追加機能ではありません。プライバシー問題を解決しなければ、市場のアップグレードは始まりません。なぜなら、機関Aと機関Bが取引する際、ポジションを直接公開することは市場の運用原則に反するからです。幸いなことに、Ethereumは応用暗号学（特にゼロ知識証明ZK）分野に数十億ドルを投資しており、スケーラビリティへの投資（計算の圧縮）がプライバシー保護の恩恵をもたらしています。

6. ネットワーク効果と流動性： 資本は資本が集まる場所に流れます。ステーブルコインの大規模な採用により、Ethereumはこの分野で大きくリードしています。

7. モジュラーインフラストラクチャ（Layer 2）： これは非常に重要です。機関にLayer 2を説明すると、非常に納得してくれます。銀行はカスタマイズ可能で拡張可能なシステムを構築したいと考えていますが、同時にそれらがEthereumという価値のインターネットに接続されていることを望んでいます。

機関と本当に深く交流し、認知のギャップを埋めると、ウォール街はEthereumを必要としていることが分かります。

リアルワールド vs. 投機的世界

開発者として、時には落胆することもあります。停止できない分散型システムを一生懸命構築しているのに、人々は「地下室の3人」が管理するマルチシグウォレット発行のMemeトークンを追いかけている。分散化を誰も気にしていないのではと心配になります。

しかし、機関の分散化への需要は、実は現実世界への窓口です。単なる投機なら人々は気にしませんが、年金や不動産契約をオンチェーン化する場合、現実世界は分散化を強制的に要求します。これらのシナリオでは、既存システムと同等かそれ以上のセキュリティが必要です。

戦略の転換：「単なる説明」から「より良いプロダクトの構築」へ

Ethereumコミュニティはインフラ構築やメカニズムデザインが得意ですが、「作れば来る」というマインドセットを超える必要があります。

私たちは機関に分散化がなぜ必要かを説明するだけでは不十分です。私たちは世界中の資産をオンチェーン化することを強いる必要があります。どうやって？単なるトークン化ではなく、既存システムよりはるかに優れたシステムを構築し、世界中の資産がオンチェーンに移行せざるを得なくするのです。

バリュープロポジションは2つの段階に分けられます：

1. 単純により良い（Simply Better）： より速く、より安く、仲介者を信頼する必要がなく、インターフェースもより使いやすい。

2. エコシステムの拡張性（Extended Ecosystem）： 資産のプログラマビリティ、DeFiの組み合わせ可能性など。

私たちは第2点にこだわりがちですが、第1点にもっと時間をかける必要があります。現在の機関向けプロダクトはインターフェースが洗練され、レポート機能も強力ですが、基盤は石器時代のままです。ブロックチェーンの特性（例えばアトミックセトルメント）を活用することで、プロダクトを本質的により良くできます。第1点をしっかり実現してこそ、ロングテール資産が第2点のイノベーション領域に参入できます。

成功の測定：1兆ドル規模の資産と市場の進化

私たちは「Trillions（兆）」単位で成功を測るべきです。現在、Ethereum上のいわゆるRWA（リアルワールドアセット）は約18 billionドルです。ちなみに、機関と話すとき、彼らはRWAとは呼ばず、単に「資産（Assets）」と呼びます。世界の資産運用規模は約120 trillionドルと推定されており、グローバル経済をオンチェーン化したいなら、機関資本を狙う必要があります。

成功のもう一つの指標は影響力と市場の進化です。

これには2つの段階があります：

1. 再配線（Rewire）： EthereumとLayer 2を使って決済ルールをプログラムし、手作業のチェックを排除します。機関市場にとって、Ethereumは実は「かなり速い」（T+1決済と比較して）です。

2. 進化（Evolve）： 市場アクセスの拡大。現在の市場は高度にハードルが高く、時には法律のため、時には単なる排他的なゲームのためです。しかし、オンチェーンプロダクトやDeFiを通じて、より多くの人が参加できるようになります。これはポジティブサムゲームです。機関はより多くの資産を管理したい、大衆は金融商品を得たいと考えています。

結語：最も重要な仕事

私は最も重要な問題を解決することに取り組むのが好きです。現在、私は毎日Etherealizeで機関採用に取り組んでいます。これには認知のギャップを埋め、DeFiのない奇妙で閉鎖的な「プライバシーチェーン」を使わず、Ethereum上に構築すべき理由を説明することが含まれます。

私たちは本当に構築し、プライベート環境を設計し、資産の流動性、法律の複雑さ、コンプライアンスを理解する必要があります。私たちがやらなければ、世界経済を他人に譲り渡すことになります。世界を変えたいなら、今こそ世界をEthereumに導く時です。

現場Q&Aセッション

Q1：機関と話す際、Ethereumの分散化について最大の誤解は何ですか？

Danny： 今の機関はますます理解を深めており、Fintechにランチを奪われるのではとFOMO（取り残される恐怖）を感じています。主な誤解は「分散化」が「無法」や「アクセス制御不能」を意味すると思われていることです。実際には、オンチェーン環境は高度にプログラム可能で、ルールを設定できます。この恐れは遅れへの懸念に変わりつつあり、ビルダーにとっては絶好のチャンスです。

Q2：機関分野に参入したい開発者へのアドバイスは？

Danny： Ethereumの技術スタックを理解するのが難しいのと同じように、ウォール街も複雑な巨大組織です。私のアドバイスは：パートナーを見つけること。ウォール街で取引経験があり、分散化を学びたい友人と組むと良いでしょう。

Q3：採用率が上がるにつれ、Ethereumが機関に「乗っ取られる（Co-opted）」リスクはありますか？

Danny： もちろんあります。Ethereumのコアであるレジリエンス、分散性、グローバル性を維持しつつ、グローバル資産を取り込む必要があります。「フォーク（Forking）」の能力を保っている限り、リスクはあります。私は「硬直主義者（Ossificationist）」ではありませんが、まだやるべきことは多いと思っています。資産導入の過程では非常に慎重でなければなりません。

Q4：機関に正しいナラティブを伝えるには？

Danny： 私たちは協力する必要があります。Ethereum FoundationがEnterprise Groupを設立したのは素晴らしい第一歩です。しかし、これは数百の重要企業と数兆ドルの資産が関わる話であり、単独ではできません。ナラティブと教育で連携し、世界中の交渉の場で私たちの声を届ける必要があります。

Q5：今知っていて、最初から知っておきたかったことは？

Danny： 言語の翻訳です。例えば、JPMorganの元石油事業責任者と「RWA」について話した時、彼は全く理解できませんでした。彼らにとってはそれが「資産」だからです。また「アトミックセトルメント（Atomic Settlement）」も、伝統金融では資産の受け渡しと資金決済が分かれており（利息を稼ぐために支払いを意図的に遅らせることもある）、この概念がありません。彼らの言語を学び、正しい「翻訳」を提供する必要があります。

Q6：機関が目を見張るものは何ですか？

Danny： Layer 2（L2）です。これは本当に共感を呼びます。大きなプールで泳ぐのではなく、機関は主権を持ち（自分やパートナーとL2を構築）、Ethereumエコシステムに接続できるというコンセプトを非常に好みます。

Q7：エコシステムの協力についてどう思いますか？

Danny： この1年は作業に没頭しすぎて協力が減ってしまいました。これは反省点です。グローバル資産がオンチェーン化される中、インフラだけでなく、DeFi、オンチェーンレンディング、資本形成、コンプライアンススタックなど、エコシステムのあらゆる部分を十分に活用する必要があります。私たちがここ数年築いてきたすべては、この瞬間のためにあります。