Vitalikの256 ETHの大胆な宣言：プライバシー通信にはより積極的なソリューションが必要

原文作者：David，深潮 TechFlow

 

本当に何かを支持するなら、最も直接的な方法は資金を提供することです。

11月26日、Vitalik Buterinは2つのプライバシー通信アプリSessionとSimpleXにそれぞれ128 ETH、合計約76万ドルを寄付しました。

彼はツイートでこう述べています：暗号化通信はデジタルプライバシー保護に不可欠であり、次の重要なステップはパーミッションレスなアカウント作成とメタデータプライバシーの実現です。

76万ドルは小さな金額ではありませんが、それ以上に気になるのはこの2つのアプリです。

SessionとSimpleXは暗号業界の外ではほとんど知られていません。なぜVitalikはより成熟したプライバシー通信ツールではなく、これらに資金を投じたのでしょうか？

寄付額自体にも意味があります。

128は人間にとっては便利な数字ではありませんが、2進数では2の7乗です。コミュニティの一部では、これはVitalikの何らかの意思表示であり、単なる気まぐれなチップではなく、構造的なプライバシー投資だと解釈されています。

寄付の前日、EU理事会は「Chat Control」提案で合意しました。この提案は通信プラットフォームにユーザーのプライベートメッセージのスキャンを義務付けるもので、プライバシー擁護者からはエンドツーエンド暗号化への直接的な脅威と見なされています。

Vitalikがこのタイミングで寄付を公表したのは、現行のプライバシー通信ソリューションが不十分であり、よりラディカルな代替案を支援する必要があるという明確な姿勢を示しています。

市場もこのシグナルを読み取ったようです。SessionのトークンSESHは発表後、0.04ドル未満から最高0.40ドル付近まで急騰し、1週間で450％以上の上昇となりました。

では、この2つのアプリは一体何なのか、なぜVitalikが賭ける価値があるのでしょうか？

Session：DePINでプライバシー通信を実現

Sessionは分散型エンドツーエンド暗号化通信アプリで、2020年に正式リリースされ、現在は約100万人のユーザーがいます。

元々はオーストラリアのOxen Privacy Tech Foundationが開発しましたが、2024年にオーストラリアのプライバシー法が厳格化したため、チームは運営主体をスイスに移し、Session Technology Foundationを設立しました。

このアプリのコアな売りは「電話番号不要」です。

登録時、Sessionは66桁のランダムな文字列をSession IDとして生成し、アカウント復元用のニーモニックも提供します。電話番号の紐付けも、メール認証も、実際の身元に結びつく情報は一切ありません。

技術的には、Sessionはオニオンルーティングに似た構造を採用し、プライバシーを確保しています。

送信する各メッセージは3層で暗号化され、3つのランダムに選ばれたノードを順に通過します。各ノードは自分の層しか復号できず、メッセージの全経路は見えません。つまり、どのノードも送信者と受信者の両方を同時に知ることはできません。

これらのノードはSession公式のサーバーではなく、コミュニティによるものです。現在、世界中に1500以上のSession Nodeが50カ国以上に分布しており、誰でもノードを運用できますが、25,000 SESHトークンのステーキングが必要です。

2025年5月、Sessionは重要なアップグレードを実施し、従来依存していたOxenネットワークから独自のSession Networkへ移行しました。新ネットワークはPoSコンセンサスを採用し、ノード運営者はSESHをステーキングしてネットワーク維持に参加し、報酬を得ます。

実際の使用感は、Sessionのインターフェースは主流の通信アプリと大きく変わらず、テキスト、ボイスメッセージ、画像、ファイル送信、最大100人の暗号化グループチャットに対応しています。音声・ビデオ通話は現在テスト段階です。

明らかな欠点は通知遅延です。メッセージが複数ノードを経由するため、中央集権型アプリより数秒、場合によってはそれ以上遅れることがあります。マルチデバイス同期もスムーズとは言えず、これは分散型アーキテクチャの宿命です。

SimpleX：IDすら不要な極端なプライバシー

Sessionの売りが「電話番号不要」なら、SimpleXはさらに過激です：

ユーザーIDすらありません。

市場にあるほぼ全ての通信アプリは、どれだけプライバシーを強調しても、何らかの識別子をユーザーに割り当てます。TelegramもSignalも電話番号、SessionはランダムなSession IDです。

これらの識別子は実名と結びつかなくても痕跡が残ります。同じアカウントで2人とチャットすれば、その2人は理論上、同じ相手と話していると確認できます。

SimpleXはこの識別子を完全に廃止しました。新しい連絡先と接続するたびに、一度限りのメッセージキューアドレスのペアが生成されます。Aさんとのチャット用アドレスとBさんとのアドレスは全く異なり、共通のメタデータはありません。

仮に誰かがこの2つの会話を同時に監視しても、それが同じ人から発信されたとは証明できません。

仮に誰かがこの2つの会話を同時に監視しても、それが同じ人から発信されたとは証明できません。

SimpleXの登録体験も独特です。アプリを開いたら表示名を入力するだけで、電話番号もメールもパスワード作成も不要です。このプロフィールは完全にローカルデバイスに保存され、SimpleXのサーバーには一切アカウント情報が残りません。

連絡先の追加方法も異なります。一度限りの招待リンクやQRコードを生成し、相手に送ってクリックしてもらうことで接続が成立します。「ユーザー名検索で友達追加」といった機能はありません。そもそもユーザー名が存在しないからです。

技術的には、SimpleXは独自開発のSimpleX Messaging Protocolを使用しています。メッセージはリレーサーバーを経由しますが、これらサーバーは暗号化メッセージを一時的に保存するだけで、ユーザー記録は一切保存せず、サーバー同士も通信しません。メッセージが届いたら削除されます。サーバーはあなたが誰か、誰と話しているかも分かりません。

この設計は極めて徹底しており、プライバシー保護のために考え抜かれています。

ちなみに、このアプリはGithubでオープンソース化されており、詳細情報もあります。

SimpleXはEvgeny Poberezkinが2021年にロンドンで創業。2022年にはVillage Global主導でプレシード資金調達を実施し、Jack Dorseyもこのプロジェクトを公に支持しています。現在アプリは完全オープンソースで、Trail of Bitsのセキュリティ監査も通過しています。

実際の使用感は、SimpleXのインターフェースはシンプルで、テキスト、ボイスメッセージ、画像、ファイル、閲覧後自動消去メッセージに対応。グループチャット機能もありますが、中央集権的なメンバーリスト管理がないため、大規模グループの体験は従来アプリに劣ります。音声通話は利用可能ですが、ビデオ通話は安定性に課題があります。

注目すべき制限として、統一ユーザーIDがないため、デバイスを変えたりローカルデータを失った場合、全ての連絡先と再接続が必要です。「アカウントにログインして全チャット履歴を復元」といったことはできません。

これも極端なプライバシー設計の代償です。

2つのアプリのビジネスモデル比較：トークンインセンティブ vs 意図的な非金融化

両アプリともプライバシー通信を目指していますが、ビジネスモデルの選択は全く異なります。

Sessionは典型的なWeb3路線で、トークンによってネットワーク参加者の利益を結びつけています。SESHはSession Networkのネイティブトークンで、主な用途は3つ：

• ノード運用には25,000 SESHのステーキングが必要；
• ノード運営者はメッセージルーティングやストレージサービスの提供でSESH報酬を得る；
• 将来的にはSession Pro会員やSession Name Serviceなど有料機能の決済にもSESHを使用予定。

このモデルの論理は、ノード運営者に経済的インセンティブを与えてネットワークの安定を維持し、ステーキングで悪意ある行為のコストを高め、トークン流通がプロジェクトの持続的な資金源となることです。現在SESHの流通量は約7,900万、最大供給量は2.4億、6,200万SESH以上がStaking Reward Poolにロックされノード報酬の準備となっています。

Vitalikの寄付後、SESHは数時間で0.04ドル未満から0.20ドル以上に急騰し、時価総額は1,600万ドルを突破しました。この暴騰には話題性もありますが、市場が「プライバシーインフラ」というストーリーに価値をつけていることも示しています。

SimpleXは全く逆の選択です。創業者Evgeny Poberezkinは、トークンの投機性がプロジェクトの本来の目的を歪めると考え、取引可能なトークンは発行しないと明言しています。

SimpleXの現在の資金源はVC資金調達とユーザーからの寄付です。2022年のプレシード資金調達は約37万ドル、ユーザー寄付は累計2.5万ドル超。チームは2026年にCommunity Vouchersを導入し、持続可能な運営を目指しています。

Community Vouchersは制限付きのユーティリティトークンで、プリペイドのサーバー利用券のようなものです。ユーザーはVouchersを購入して自分のコミュニティのサーバー費用を支払い、資金はサーバー運営者とSimpleXネットワークに分配されます。重要な違いは、これらVouchersは取引不可、事前マイニングや公開販売もなく、購入時の価格は固定です。

SimpleXは金融投機の可能性を意図的に排除しています。

両路線には一長一短があります。Sessionのトークンモデルはノード運営者や資本の注目を素早く集められますが、トークン価格の変動や規制リスクにもさらされます。SimpleXの非金融化設計はプロジェクトの純粋性を保ちますが、資金源が限られ、拡大ペースは遅くなります。

これは単なるビジネス戦略の違いではなく、「プライバシーはどう資金調達されるべきか」という理解の違いも反映しています。

プライバシー通信の共通課題

Vitalikは寄付のツイートで手放しの賛辞はしていません。彼は明確にこう述べています：

この2つのアプリはどちらも完璧ではなく、真のユーザー体験と安全性の実現にはまだ長い道のりがある、と。彼が挙げた課題は、実はプライバシー通信分野全体の構造的な問題です。

1つ目は分散化自体のコストです。中央集権型アプリはメッセージ伝送が速く、安定していて、体験も滑らかです。全データが同じサーバーを通るため最適化しやすいのです。分散化すると、メッセージは複数の独立ノードを経由するため、遅延は避けられません。

2つ目はマルチデバイス同期です。TelegramやWhatsAppなら、別のスマホでアカウントにログインすればチャット履歴が戻ってきます。しかし分散型アーキテクチャでは、中央サーバーにデータがないため、マルチデバイス同期はエンドツーエンドの鍵同期に頼るしかなく、技術的に非常に複雑です。

3つ目はSybil攻撃とDoS防御です。中央集権型プラットフォームは電話番号登録が自然なフィルターとなり、スパムアカウントや悪意ある攻撃を防ぎます。電話番号紐付けを廃止した場合、大量の偽アカウントによる迷惑行為やネットワーク攻撃をどう防ぐかが課題です。

分散化を目指せば体験を犠牲にし、パーミッションレス登録を目指せば悪用防止の新たな方法が必要になり、マルチデバイス同期を目指せばプライバシーと利便性の間でトレードオフが生じます。

Vitalikがこのタイミングで2つのプロジェクトに資金を投じたのは、これらの課題は解決する価値があり、そのためには資金と注目が必要だという意思表示でもあります。

一般ユーザーにとって、今すぐSessionやSimpleXに乗り換えるのはまだ早いかもしれません。体験面の弱点は確かに存在します。しかし、自分のデジタルプライバシーを大切に思うなら、「本当のプライバシー」がどこまでできるのか、一度試してみる価値はあります。

何しろ、Vitalikが本気で資金を投じる時、それは単なるギークの自己満足では終わらない可能性が高いのです。